「尿を採るだけで、複数のがんのリスクが分かる」
そんな検査として注目されているのが「マイシグナル・スキャン」です。
→ マイシグナル・スキャン公式サイト
尿を自宅で採取して送るだけなので、内視鏡検査や画像検査と比べて身体的な負担が少ないことは大きな魅力です。
そして「感度・特異度90%以上」といった数字を見ると、「それなら、かなり正確にがんを見つけられるのでは?」と思うかもしれません。
しかし、新しい検査の信頼性は、感度や特異度の数字だけでは判断できません。
そこでこの記事では、マイシグナルの感度・特異度がどのような研究から得られた数字なのかを確認し、研究の内容や限界について詳しく解説します。
結論:今後の発展が期待される検査ではあるが、一般の人を対象としたがん検診としての有効性は確立していない
マイシグナルには、がんを見つける検査として有望な研究結果があります。
一方で、現在の研究だけから、「マイシグナルを受ければ、がんを早期に発見できる」、「現在行われているがん検診より優れている」とは言えません。
現時点では、「今後の発展が期待される検査ではあるが、一般の人を対象としたがん検診としての有効性は確立していない」と考えるのが適切です。
マイシグナルはどんな検査?
マイシグナル・スキャンの詳しい検査内容や費用については、公式サイトをご確認ください。
→ マイシグナル・スキャン公式サイト
マイシグナル・スキャンは、尿に含まれる「マイクロRNA」という物質などを調べ、がんのリスクを評価する検査です。マイクロRNAは細胞の働きを調節している小さな物質で、がんがある場合には正常な状態とは異なるパターンがみられることがあります。マイシグナルでは、この違いを利用して尿からがんのリスクを評価します。
現在のマイシグナル・スキャンでは、
- 膵がん
- 肺がん
- 胃がん
- 大腸がん
- 食道がん
- 腎臓がん
- 膀胱がん
- 乳がん
- 卵巣がん
- 前立腺がん
の10種類が対象です。
マイシグナル・スキャンは79,200円(税込)です。他にマイシグナル・ライトという24,860円(税込み)の安価なプランもあります。これらは自由診療の検査のため、公的医療保険は適用されません。
重要な点として、マイシグナルは、がんの有無を確定する「診断検査」ではありません。
検査結果は「がんのリスク」を評価するものです。
感度と特異度とは?
検査の性能を評価するとき、「感度」と「特異度」という数字を使います。
感度
本当にがんがある人を、どれくらい見つけられるかを示します。
例えば感度90%なら、「がん患者100人を検査すると、90人程度が陽性となる」という意味です。
残りの10人程度は、がんがあるのに「陰性」と判定される可能性があります。
特異度
本当はがんがない人を、どれくらい正しく「陰性」と判定できるかを示します。
例えば特異度90%なら、「がんではない100人を検査すると、90人程度が陰性となる」という意味です。
残りの10人程度は、がんがないのに「陽性」と判定される可能性があります。

つまり、
感度が高い → がんを見逃しにくい
特異度が高い → がんではない人を陽性にしにくい
ということです。
マイシグナルではどのくらいの精度が報告されている?
マイシグナルの公式サイトでは、10種類のがんについて以下の感度・特異度が報告されています。
| がん | 感度 | 特異度 | 主な発表・掲載 | データについて |
| 膵がん | 92.9% | 92.9% | 査読論文:eClinicalMedicine 2024 | 早期Stage I/IIA |
| 卵巣がん | 98% | 92% | 学会発表:ESMO 2021 | 研究結果 |
| 胃がん | 83.7% | 69.0% | 学会発表:AACR-JCA 2025 | 早期Stage 0/I、テストデータ |
| 食道がん | 82% | 67.8% | 学会発表:UEG Week 2024 | テストデータ |
| 肺がん | 88.6% | 87.1% | 学会発表:日本肺癌学会 2024 | テストデータ |
| 大腸がん | 90% | 92% | 学会発表:日本がん検診・診断学会 2022 | 研究結果 |
| 乳がん | 80% | 83% | 学会発表:日本がん検診・診断学会 2022 | 研究結果 |
| 前立腺がん | 87% | 89% | 学会発表:日本がん検診・診断学会 2022 | 研究結果 |
| 腎臓がん | 90% | 92% | 学会発表:日本がん検診・診断学会 2022 | 研究結果 |
| 膀胱がん | 94% | 85% | 学会発表:AACR 2021 | 研究結果 |
※数値はマイシグナルが公開している研究時の評価結果です。すべての状況で同じ性能が保証されるものではありません。また、がん種によって研究方法や対象者が異なるため、数字を単純に比較することはできません。
この表から分かるのは、10種類すべてについて同じレベルの研究が行われているわけではないということです。
膵がんについては査読を受けた論文がある一方、その他の多くのがんでは、現在公式サイトに掲載されている主な結果は学会発表によるものです。
学会発表と査読論文は何が違う?
学会発表も重要な研究成果です。ただし、学会発表では、論文ほど詳しい研究方法や患者の内訳、統計解析などが公開されていないことがあります。また、学会発表された研究が、その後必ず論文として出版されるとは限りません。
査読論文では、研究方法や解析方法、患者の背景などを詳しく記載し、専門家によるチェック(査読)を受けたうえで掲載されます。
そのため、医学的な根拠を評価するときには、一般的に査読を受けた論文が重要な情報源として重視されます。
「テストデータ」とは?
ここは難解なため読み飛ばしても構いません。
マイシグナルの研究では、「訓練データ」と「テストデータ」という言葉が出てきます。
これはAIなどを利用した検査では重要な考え方です。
まず、がんの人か、がんではない人か、既にわかっている患者データを使って、
「がんの人と、がんではない人をどのように区別すればよいか」
という判定方法を作ります。
単純化すると、
miRNA Aが高い
+ miRNA Bが低い
+ miRNA Cが高い
→ 膵癌らしい
というパターンをコンピューターに学習させるイメージです。
これが訓練データです。
その後、判定方法を作るために使わなかった、別の患者データを使って、本当に正しく判定できるか確認します。
これがテストデータです。
つまり、
訓練データ:検査の判定方法を作るために使う
テストデータ:作った判定方法が正しく機能するかを確認するために使う
という違いです。
訓練データでは、がんの有無がすでに分かっているデータを使って、「がんの人」と「がんではない人」をできるだけ正しく見分けられるように、検査の判定方法を調整します。
そのため、訓練データで得られた感度や特異度は、そのデータに合わせて調整した結果です。実際に初めて見る患者に検査した場合には、同じような結果が得られない可能性があるため、別の患者集団で検証する必要があります。
膵がん研究で特に気になるポイント
ここで、miSignalの検査精度の根拠に査読論文を引用している膵がんの研究について確認します。
この研究には、いくつか重要な注意点があります。
① 研究対象者が462人と、一般の検診研究としては大規模とはいえない
新しい検査の性能を調べる研究として一定の価値はありますが、一般の人に広く使った場合の性能を確定するには、より大規模な研究が必要です。
特に早期膵がんは少なく、研究全体の膵がん153人のうちStage I/IIAは42人でした。
つまり、約73%がStage IIB以上です。
検診で本当に重要なのは、症状が出る前の早期がんを見つけられるかどうかです。
そのため、進行がんが多い集団で高い検出率が得られても、それだけで「検診として早期膵がんを高い精度で発見できる」とは言えません。
② テストデータの早期膵がんは9人
さらに重要なのが、テストデータです。
テストデータには膵がん患者54人が含まれていましたが、そのうちStage I/IIAは9人でした。
この9人に対する感度は77.8%でした。
ただし、9人という人数では、1~2人の判定が変わるだけでも感度が大きく変化します。
例えば9人のうち7人を陽性と判定すれば感度は77.8%ですが、8人なら88.9%、6人なら66.7%になります。このように、対象者が9人しかいないと、わずかな判定の違いで感度が大きく変わります。
これは、「早期膵がんを検出できる可能性は示されているが、正確な検出率については、まだ不確実性が大きい」という意味です。
新しいがん検査は、どこまで研究されれば「使える」のか?
ここからが、マイシグナルを評価するうえで重要なところです。
新しいがん検査は、いきなり「検診として有効」と判断するわけではありません。
大まかには、次のような段階を考えると分かりやすくなります。
① 技術的に検出できるか
これは新しい検査を開発する最初の段階です。
② がん患者と、がんではない人を区別できるか
実際にがんがある人と、がんがない人をどの程度正確に区別できるかを調べます。
③ 別の患者集団でも同じ結果が出るか
ある機関で作った検査方法が、別の地域・別の病院・別の患者集団でも同じように機能するかを調べます。
④ 実際の健康な人を対象に、早期がんを見つけられるか
症状のない一般の人に検査を行い、その後にがんが見つかった人を追跡します。そして、「症状のない人の中から、本当に早期がんを見つけられるのか?」を確認します。
⑤ 検査による利益が、不利益を上回るか
陽性になった人が精密検査を受けた結果、がんではなかった、追加検査が何度も必要になった、検査による身体的負担が生じた、がんの可能性を心配する期間が生じた、といった不利益が生じることがあります。「がんを見つけられるか」だけでなく、「検査を受けることでどの程度の利益と不利益が生じるのか」を評価する必要があります。
⑥ 最終的に、がんによる死亡を減らせるか
がん検診では、単にがんを多く発見できればよいわけではありません。早く見つけることで治療成績が改善し、最終的に死亡する人が減ることが重要です。
例えば、検査によって今まで見つからなかった小さながんを大量に発見できたとしても、その中に「見つけなくても一生問題にならなかったがん」が多く含まれていれば、検査の利益だけを評価することはできません。
このような過剰診断の問題も含めて、検診としての有効性を評価する必要があります。
マイシグナルの膵がん研究は、現在どの段階?一般的ながん検診は?
| マイシグナル・膵がん研究 | 確立したがん検診の例 | |
|---|---|---|
| ① 技術的に検出できるか | ○ | ○ |
| ② がん患者と非がん者を区別できるか | ○ | ○ |
| ③ 別の患者集団で再現するか | 十分な検証はまだ | 多くの研究あり |
| ④ 無症状の一般人から早期がんを発見できるか | 十分な検証はまだ | 検証されている |
| ⑤ 利益と不利益のバランス | 十分な検証はまだ | 検証されている |
| ⑥ 検診によって死亡を減らせるか | まだ分かっていない | 一部の検診では確認されている |
この6段階で考えると、マイシグナルの膵がん研究については、
②「がん患者と非がん者を区別できる可能性がある」
ことを示す研究と考えるのが適切です。
一方で、USPSTF(米国予防医療専門委員会)が推奨している大腸がんや乳がんなどの多くのがん検診は、「がんを見つけられる」だけでなく、「検診を行うことで、がんで亡くなる人が減る」ところまで研究されきました。
ただし、現在推奨されているすべての検診が、まったく同じ研究方法で死亡減少まで証明されているわけではありません。
重要なのは、マイシグナルではまだ主に「検査でがんと非がんを区別できるか」という段階の研究が中心であり、一般の人を対象にした検診としての利益や不利益については、今後さらに検証が必要だということです。
そのため、マイシグナルを受けたからといって、現在推奨されているがん検診を省略することはすすめられません。
なお、日本では、
- 大腸がん → 便潜血検査
- 胃がん → 胃内視鏡など
- 肺がん → 胸部X線など
- 乳がん → マンモグラフィ
- 子宮頸がん → 細胞診など
が推奨されています。
各がん検診についてはそれぞれ記事を書いていますので、参考にしてください。
膵がんの「事前確率」も重要
もう一つ、感度・特異度だけでは分からない重要な問題があります。
それが事前確率です。
事前確率とは、簡単にいうと、
検査を受ける前に、その人が病気である可能性
です。
今回の膵がん研究では、日本の40歳以上の人口における膵がんの頻度を約0.056%として、検査結果の解釈を検討しています。0.056%というのは、単純化すると約1800人に1人です。
ここで仮に、感度92.9%、特異度92.9%の検査を、膵がんの頻度が0.056%の一般集団に使ったとします。
計算上、陽性的中率(検査で陽性だった場合に本当に膵がんの確率)は約0.7%です。
例を提示します。
100万人の一般の人がこの検査を受けたと仮定すると、膵がんの頻度が0.056%なら約560人が膵がんです。
感度92.9%なら、そのうち約520人が陽性になります。
一方、膵がんではない約99万9440人のうち、特異度92.9%なら約7.1%が偽陽性となり、約7万人が陽性になります。
すると、陽性者全体の中で本当に膵がんだった人は約0.7%にしかなりません。
つまり、検査で陽性となった約7万520人のうち、実際に膵がんである人は520人しかいないということです。

これは検査の精度が低いからではありません。
もともと膵がんの人が非常に少ない集団では、少数の偽陽性(膵がんではないが検査で陽性となる人)が本当の膵がん患者を大きく上回ることがあるためです。
だからこそ、検査の性能だけでなく、どのような人を対象に検査するのかが重要になります。
「高リスク」と判定されたらどうなる?負担も考える
マイシグナルで「高リスク」と判定されても、
「がんがあります」という意味ではありません。
その後、医療機関を受診し、必要に応じて追加の検査を行います。
例えば、
- CT
- MRI
- 超音波検査
- 内視鏡検査
- 血液検査
などです。
どの検査を行うかは、どのがんのリスクが高いと判定されたのか、年齢や症状などによって異なります。
さらに、検査する臓器をあらかじめ指定しないマイシグナル・スキャンと比べて安価な「マイシグナル・ライト」というプランでは、陽性になった場合に、どの臓器を詳しく調べればよいのかが分からないという点には注意が必要です。
そのため、マイシグナル・ライトで陽性となった場合はより多くの臓器を対象に追加の検査を検討する必要があり、検査の回数や費用、身体的・心理的な負担が増える可能性があります。
また、
マイシグナルで高リスク
↓
医療機関を受診
↓
精密検査
↓
がんではなかった
という結果も当然あり得ます。
特に、もともとがんの頻度が低い一般の人を対象にする場合、陽性になった人の中で実際にはがんではない人が多くなる可能性があります。
高リスクと判定された場合、精密検査の結果が出るまで「本当に膵がんがあるのではないか」という不安を抱えながら過ごす方もいるでしょう。それだけではなく、精密検査で異常なしと言われても「本当はごく初期のがんがあるのではないか」と不安が消えない方も出てくるかもしれません。
なお、「マイシグナルで陽性だったので、念のため詳しく調べたい」というだけで、すべての検査が保険診療になるとは限りません。そのため、可能であれば医療機関を受診する前に、精密検査が保険診療になるのかを医療機関に確認しておくと安心です。
このように、「検査のメリット=がんを見つけられる可能性」だけではありません。
陽性になった場合に、どのような検査や負担が生じるのかまで考える必要があります。
筆者の考え
この記事を執筆している2026年9月、ある患者さんから「マイシグナルを受けようと思うが、どう思うか」と相談を受けました。そのときの私は、この検査にどのような医学的根拠があるのかを十分に理解していませんでした。
その後、別の患者さんから、マイシグナル・ライトで「陽性」と判定されたため、どうすればよいか相談を受けました。しかし、どの臓器をどのように検査すればよいのか、また、その検査が保険診療になるのかなど、判断に迷う点が多くありました。
そこで今回、マイシグナルについて、公開されている研究結果や検査の仕組み、陽性になった場合の対応などを詳しく調べました。
ここまで調べた範囲では、少なくとも現時点では、私は自分自身や家族に積極的に受けることを勧めたいとは思いません。
これは、マイシグナルに価値がないという意味ではありません。尿を使ってがんを検出する技術としては興味深く、今後さらに研究が進むことを期待しています。
また、陽性になった後の精密検査や費用、心理的な負担まで考えると、検査を受けるかどうかは慎重に判断する必要があると考えています。
まとめ
マイシグナルは、尿中のマイクロRNAなどを利用して、複数のがんのリスクを調べる新しい検査です。
複数のがんについて高い感度・特異度が報告されており、尿を使ってがんを検出する技術として興味深い研究結果が出ています。
一方で、感度・特異度の数字だけで、検査が「がん検診として有効」と判断することはできません。検査を受ける人の中で、もともと膵がんがある人が少ない場合には、感度・特異度が高くても、陽性者の多くが実際には膵がんではない可能性があります。
さらに、高リスクと判定された場合には、医療機関で追加の検査が必要になる可能性があります。がんが見つからなかった場合でも、精密検査にかかる費用や身体的負担、結果を待つ間の心理的負担などが生じることがあります。
そのため、現時点では、
「尿を使ってがんを検出する技術としては興味深い研究結果が報告されているが、一般の人が受けるがん検診としての有効性が確立した段階とは、まだ言えない」
と考えるのが妥当でしょう。
マイシグナルを受ける場合も、現在推奨されているがん検診の代わりにするのではなく、この検査で分かること・分からないこと、陽性になった場合の精密検査や費用・負担まで理解したうえで、受けるかどうかを考えることが大切です。
参考文献・情報源
- マイシグナル
- Baba et al., A noninvasive urinary microRNA-based assay for the detection of pancreatic cancer from early to late stages: a case control study. EClinicalMedicine 2024
- USPSTF「Colorectal Cancer Screening」
記事情報:2026年10月2日作成/最終更新:2026年10月2日


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